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売り買い

No.39 今ある土地を売って新たな生活

No.39 今ある土地を売って新たな生活

「それはねぇ、底値で買えれば株も良いと考えているんです。だから私が株式投資に参入するとしたら、相場が大きく崩れた時でしょうね。そこでいくつか拾って、しばらく様子を見ますかね。毎日モニターを眺めなければいけないなんて、そんな生活は御免ですよ」こう力説するのはお隣のお爺ちゃんだ。結構な広さの不動産を所有している、大地主だった。DMや電話での勧誘も多いのだと嘆く。

そのお爺ちゃんの将棋相手である家の祖父は、適当に相槌を打ちながら将棋盤から目を離さない。小さくカットした栗ようかんをパクつきながら、器用に湯飲みを探り当てている。「まあ持っている者の定めだと思って、諦めることですな」と言いながらパチンと指す。それを見ながらお隣のお爺ちゃんも負けてはいない。「土地なんていうものは、持っているだけでは税金払うだけですからな。なまじ面積があるものだから、売りにくいったらありゃしない」

「だから分筆して売ろうと考えてるんです。実はそれを売って、駅近にあるマンションを買おうかなと検討しているところで」と、パチン。「駅近って、あれ結構古いんじゃないですか?」これは私だ。「リノベーションと言うんですか、大規模にリフォームして貸し出すんですよ。不動産も売れば儲かるという時代じゃあないから、物件を選ばないと。駅近なら、需要がないなんてことはないんだから」「では、1棟丸ごと買う予定なんですか」再びパチン。

ゆっくりとお茶をすすって、お爺ちゃんが話し出した。「相談している段階ですかね。まあ私の場合は子供たちのこれからの生活のためという目的があるわけで、そのために色々相談にのってもらっているわけです」ちょっと心配になった私たちの顔色を読んだのか、お爺ちゃんは付け加える。「心配は無用ですよ、私はこれでも人を見る目はあるつもりです。ほぼ自社物件を取り扱うし、満室状態で引き継ぐわけで、後は管理の問題だけですからね。あのマンション、今でも満室だって知ってましたか?」「まあ、あなたがそう言うなら、そうなんでしょうね」祖父の指した手に、お爺ちゃんが目を剥いた。