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No.48 生きている間に確認。土地相続

No.48 生きている間に確認。土地相続

「不動産は資産だということで言えば確かにそうなんだろうけど、何も利用しないで持ってるだけなら税金かかるだけじゃないのか」夫のその言葉に、息子が頷いた。そんな2人の様子を見て、祖父が苦笑する。「それじゃ、今のうちに処分しておくとするかな」広げていた地図をたたみ、お茶を一口すする。「まあ親父、家族全員が揃うなんて滅多にないことだから、これから見に行ってみようよ。それから決めても遅くはないだろう」

親父が図面を持って、こういう土地を持ってるんだがと言ってきたのが数日前だった。父は年齢のこともあり身辺整理を進めていたから、相続の意志があるか確認したかったのだと思う。地図を見る限り、持っていても価値が上がる土地だとは思えなかった。土地に対する考え方はバブル崩壊後に大きく様変わりした印象がある。それまでは「持っていればその内価格が上がる」ものだったし、担保価値もあったろう。

それが「その物件が価値を生むかどうか、どう利用すればどの程度の価値を生むか」に変化していったように思う。そしてここ数年、もっとシビアになっている気がする。どちらかと言えば、自分にとって必要ないなら持たなくてもいいという方向へ。親父の世代の人間はバブルの経験があるから、不動産についてのとらえ方が自分たちとは違う、そう信じている。

親父が持っていたのは車で10分位のところにある、鄙びた里山だった。誰も住んでいない古い民家と物置があり、それを取り囲むように樹が生い茂る林が広がっている。その林は両脇に畑を従えながら走る砂利道によって、背後に控える森へと繋がっていた。「この家と林の小山がそうなんだ」1,000坪弱といったところか。「中々良い感じの古家じゃないか」私の言葉に、親父が頷いた。「ここで畑でもやりながら田舎暮らしをするのが夢だったんだが。1人で住むのもなあ」母は数年前に病気で亡くなっていたのだ。

「知り合いの不動産屋に頼んで競売で落としてもらった物件だから、安いは安いんだ」古家を囲む林に分け入ってみる。紅葉やドングリ、栗の木。家の近くには柿の大木があった。「地震が来たら、潰れたりしないかな?」息子がガラスを透かして中を覗き込む。「古い家は、案外頑丈に出来てるんだぞ。鍵を持ってくれば良かったな」と親父。「一度戻って飯を食って、もう一度来てみようか。中も見てみたいし」親父が嬉しそうに笑う。そう、ここは見る人によっては何の価値もない古家が残る山林だ。でも親父には見えたように、私の目にも見えていた。美しく染まった紅葉に囲まれた、囲炉裏が残る古家。その縁側で空を見上げる自分の姿が。