イーヨーフドウサン

売り買い

No.30 家賃収入で税金対策

No.30 家賃収入で税金対策

「あの駅近に出来たマンション、もう完売したらしいよ」こういう情報を素早く仕入れてくる類の人間はどこにもいるものだ。私と同じ階に住むSさんがそうで、このマンションの古株であり、発言力もあった。かといってクレーマーというわけではなく、管理会社からも頼られて仲裁に入ったりすることもあったのだ。「でもチラシが入ったのって、先月じゃなかった?」「ああいうマンションって、随分前から募集かけたりするらしいからね。先月にはほとんど売れちゃってたんじゃないの」そういうものなのか。

「それがねぇ、お医者様が結構買ったらしい」「そうなの?自分で住むために?」我ながら、世間知らずな質問だったと思う。Sさんが驚いたように私を見つめ、首を横に振った。「中にはそういう医師もいるでしょうけどね、貸すのよ、家賃収入になるでしょう?」「でも借り手が見つからなかったら、空き部屋のまま維持していくんでしょう?損するんじゃないの?」またまたSさんの瞳が瞬いた。「損でもいいのよ。不動産で出した損は所得税と通算出来るから、納める税金が少なくなるだけだもの。節税するには、もってこいなのよ」

「お医者様なら、銀行だって安心して貸すでしょう?有るところには集まっていく、それがマネーなのよね」そうか、駅近なら空室のリスクは小さいだろうし、将来売ってしまってもいいのだ。「まあお医者様だけではなく弁護士とか高給取りと言われる職業なら、出来る範囲で節税しようとはするよね、我々だってそうするんだから」少しは勉強しなさい、Sさんはそう言って戻って行った。私は夫の扶養に入っているから、節約はしようと思っても節税の方は意識に入っていなかった。夫の仕事は医者でもない普通のサラリーマンだけれど、知らないでいて愚かなことをやっているかもしれない。本当に少し勉強してみようか、そう痛感した朝だった。