
一戸建てに住むのは、長い間私の夢だった。マンションを終の住処としている友人もいて、光熱費が安くて済むとかセキュリティが安心だとか言うのだけれど、私は根っからの戸建て派だ。庭いじりをしてみたい、野菜や果物を育ててみたいという思いが昔から強いのだ。だから埼玉で物件を探し始めた時、不動産の業者にはその旨念を押したものだった。
都心部で仕事をしてはいても、住むのは断じて周辺の地方が良い。どちらかと言えば田舎の方が良い位なのだけれど、通勤に不便なのも困る。いくつか候補が上がった中で、比較的本気で物件を探しているのが吉川市、その近辺だった。予算等の条件以外で提示したのはただ一つ、家は大きくなくても良いので家庭菜園が出来ること。余りに狭い庭では嫌だということだけだった。
それは、もしかしたら母の影響があるのかも知れなかった。子供の頃住んでいた家は戸建ての団地だったのだけれど、庭が広々とあったのだ。その庭で母は無花果、トウモロコシや花を育てていた。どちらかと言えば貧乏だった家の食卓を賑わしてくれるのは、それらの野菜たちだったのだ。
農業初心者の私の強い助っ人となってくれたのが、グーグル先生と何冊かの園芸書。ただ、そこに生身の人間の先生が加わるかもしれない。今日見に行く物件のオーナーさんは農家さんで、畑をやっていると言う。都合が合えば教えてくれると言っているそうだ。だから今日は物件を見極め、私が見極められる1日となる。
時間があれば、庭で汗を流していた母の姿が目に浮かぶ。これから見せてもらう分譲地は、どんな土地だろう。仕事があるので、典型的な週末ファーマーになるだろう。庭で作った最初の野菜や花、果実が仏壇を飾ることになるだろう。それとも少し早起きして、日の出を楽しんでみようか。母がそうしていたように。